多発性硬化症(MS)とはどんな病気?
多発性硬化症とはどんな病気?
多発性硬化症の診断はどのようにされるのでしょうか?
多発性硬化症の治療法にはどのようなものがあるのでしょうか?
多発性硬化症の日常生活の過ごし方は?
多発性硬化症の基礎知識と療養のポイント
1 多発性硬化症(MS)とはどんな病気?
脳や脊髄の神経細胞には、軸索(じくさく)と呼ばれる突起があり、この突起が他の神経細胞につながり、細胞と細胞の間で情報の伝達を行っています。軸索には、それを包む 【さや】のようなものがあり、髄鞘(ずいしょう)と呼ばれます。髄鞘は、突起を保護 したり、電気的な情報の伝達をスムーズに行うような働きをしています。この髄鞘が、炎 症により壊されることを脱髄(だつずい)と言います。脱髄が生じると、神経細胞の情報 伝達がうまくいかず、麻痺やしびれをきたします。多発性硬化症は、脳や脊髄などの中枢神経に脱髄をきたす疾患です。炎症により、脱髄が生じる詳しいメカニズムはまだ分っていませんが、免疫の異常が想定されています。
(1)どのくらい患者さんがおられるのでしょうか
日本での患者数は、人口10万人あたり3〜5人ほどであり、女性に多くみられます。
全国で約5,000人、日本でも緯度が高くなるほど患者数が増えます(緯度効果)。
約80%が15〜50歳で発症するといわれています。ピークは30歳頃、家族性はごくわずかで約1%位です。
(2)多発性硬化症には、どのような症状がありますか
(初発症状)
ほとんどが急性に発症し、一週間以内にピークに達します。自然に改善することもあります。視神経、脊髄、大脳などの病巣により症状も異なりますが、視力障害、しびれ感、運動麻痺、歩行障害などが多く出現します。
(その後の経過中に出現する症状)
日本では視神経、脊髄の障害が多く現れます。
症候群の遺伝性疾患ダウン
・ 視神経の症状: | 視力の低下、視野の異常(中心視野が見えにくくなりやすい)、眼を動かすと眼球が痛いといった症状などがあります。両眼または片眼に生じ、急速に進行することや再発を繰り返すことがあります。 |
・ 脊髄の症状: | 手足に運動麻痺やしびれ、感覚低下が生じます。 | |
排尿・排便障害・・ | 自律神経がおかされることで最もよくみられる症状です。薬剤のコントロールも可能です。 | |
レルミッテ徴候・・ | 頭を前に曲げると痛みが生じ、背中から足にむけ下降します。発作的におこります。 | |
有痛性強直性痙攣・・ | 持続の短い痛みを伴い、手足が硬直します。けいれんの治療が必要になります。 |
・ 脳の症状: | 物が二つに見える(複視)、言語障害、顔のしびれ、運動失調、精神症状、けいれんなどがおこります。 |
・ Uhthoff徴候: | 運動、発熱、入浴などで体温が上昇すると、一時的に神経の症状(視力障害、しびれ、麻痺など)が悪化することをいいます。通常、体温が戻れば回復します。 |
(3)多発性硬化症はどのような経過をたどるのですか
・ 急性に発症し再発・寛解を繰り返す型(最も多い):繰り返すたびにしびれや麻痺が治
りにくくなることがあります。
・ 再発・寛解を繰り返し、その後、進行性に増悪する型
・ 最初から慢性進行性に増悪する型
・ 進行性の経過をたどりながら寛解が加わる型
・ 良性型多発性硬化症:発症後、10年経過しても歩行に制限のないタイプ。その後、症
状が悪化することもあります。
発作の基準として、視力障害や麻痺、しびれなどの症状が24時間以上続くことがあげら
れます。以前に発作があり、30日位たって発作が再び現れると再発と考えられます。
(経過に影響する因子)
prostatisと便秘
ア 短期的影響
・ 感染症:呼吸器系のもので悪化するとの報告があります。
・ 精神的ストレス:あまりはっきりしません。
・ 妊娠:妊娠中の悪化はありませんが、産褥期に発作がおこりやすく、悪化するとの
報告があります。
・ 温熱:Uhthoff徴候による悪化があります。
イ 長期的影響
・ 性差:女性の方がよい、差がない、など様々ではっきりしません。
・ 発症年齢:発症年齢が遅いよりも、若い(40歳以下)方がよいという報告があり
ます。
・ 初発症状:視神経炎で発症し、麻痺や小脳障害のない方がよいという報告があります。
・ 再発間隔:初回発作から2回目の発作までの間隔が長いほどよいとの報告があります。
・ 再発頻度:影響ははっきりしません。
U 多発性硬化症の診断はどのようにされるのでしょうか?
・ 血液検査: | 通常、正常です。 |
・ 髄液検査: | 症状の悪化した時に、炎症の反応が見られます。細胞数の増加、総タンパク の増加、γ−グロブリンの増加、オリゴクローナルバンドの出現等が見られます。 |
・ 誘発電位: | 視覚、聴覚、体性感覚などの刺激を与え、その刺激が脳に達するまでどのように伝わっていくか、主にそのスピードを調べます。視神経、脳、脊髄の脱髄部で伝導の障害がみられます。この検査によって、病巣の確認や潜在病変の検出をします。 |
・ CT、MRI: | 脱髄病巣の確認には、特にMRIが有効です。造影剤を用い、新旧の病巣の区別も可能です。また、無症状の潜在性病巣の確認や治療効果の判定にも有用です。 |
多発性硬化症の診断基準(厚生省、1988年)
@ 中枢神経内の2つ以上の病巣に由来する症状がある。(空間的多発)
A 症状の寛解や再発がある。(時間的多発性)
B 他の疾患による神経症状を鑑別しうる。
臨床的診断確実例: | 上記3つをすべて満足するもの |
疑い例: | 上記3つを完全に満足しないが、強く多発性硬化症が考えられるもの |
他にも外国で提唱された診断基準があります。
背中の下部や腹部痛
V 多発性硬化症の治療法にはどのようなものがあるでしょうか?
(1)急性期の治療
(2)再発予防・進行抑制の治療
(3)症状緩和の治療
(1) 急性期の治療
・メチルプレドニゾン・パルス療法
ソルメドロールを500〜1000mg点滴し、これを3〜5日間(1クール)、1〜2クール行います。この治療法は、ステロイド・パルス療法と呼ばれます。症状が劇的に変化します。点滴で終わる場合もありますが、経口プレドニゾロンを引き続き投与し、少しずつ減らして中止することが多いです。保険適応がありません。
・ 短期ステロイド内服療法
ステロイドの服用量は様々ですが、一般には一日に30〜60mgを服用し、症状に応じて用量を減らしていきます。投与の期間は3週間程度です。保険適応があります。
・ 血漿交換療法
人工透析と同じように、多発性硬化症に関与している抗体を取り除く治療です。ステロイド・パルス療法が効かない方におこなわれることがあります。一生再発が起こらないということはなく、短期的な治療法です。保険適応があります。
(2) 再発予防・進行抑制の治療
・インターフェロン・ベータ1b(ベタフェロン)
再発回数を減らす効果と、再発した際に症状を軽くする効果があります。また、MRI検査でみられる活動病巣面積が減少する作用もあります。ベタフェロンは、1日おきに本人または家族が皮下注射します。注射は、下腹部、大腿部、臀部などのやわらかい部位に行います。ベタフェロンには副作用があり、よくみられるのが発熱、倦怠感、関節痛などの感冒様症候群と呼ばれる風邪症状です。解熱鎮痛剤を服用することで抑制します。また、注射部位の発赤、疼痛、硬結などの反応も見られます。冷やしてから注射する、注射を打つ部位のローテーションをする、針をしっかり打つ等で反応を減らすこともできます。保険適応があります。
・ 免疫抑制剤
エンドキサン(シクロフォスファミド)、イムラン(アザチオプリン)
これらは一定の効果があるものの副作用とのバランスを取ることが大事になります。副作用として、易感染性、骨髄抑制、肝・腎・胃腸障害、脱毛、発ガン性などがあります。経過を見ながら使用し、うまく薬とあえば経過は良好となります。
(3) 症状緩和の治療
多発性硬化症には、様々な症状があります。これらの症状に対して適切な対処を行うことが、病気とうまく付き合うことにもつながります。
ア 排尿障害の治療
頻尿や尿意切迫、ときには尿失禁といった症状が現れる排尿障害には、ポラキス、バップフォー、ブラダロンなど、膀胱の筋肉の収縮を弱める作用のある薬が有効となります。また、尿閉、排尿遅延といった尿を排出しにくい症状が現れる時は、ウブレチドなど、筋肉の収縮を高める薬が有効となります。お腹に手を当てて前かがみになって行う用手的排尿法や自分で尿道に管を入れる間欠的自己導尿などの対処法もあります。
残尿により尿路感染症を起こさないようにすることが必要です。
イ しびれの治療
多発性硬化症でみられる、チクチク感、ヒリヒリ感、しびれなど痛みの反応を和らげる薬として、テグレトール、アレビアチン、ランドセン、トリプタノール、メキシチールといった治療薬があります。薬物療法のほかに、マッサージ、保温、冷却、ストレッチをするなどにより、痛みやしびれが緩和されることがあるようです。個々の患者さんでどのような方法が適しているのか異なりますので、様々な方法を試してください。
ウ 足のつっぱり(痙性)に対して
足の筋肉のこわばりやつっぱりを和らげて歩きやすくするために、テルネリン、ミオナール、レオレサール、ダントリウムなどを服用します。副作用の主なものは脱力感、ふらつき、眠気などです。どの薬剤が有効かなど、主治医と相談して下さい。尖足がある場合は、足首を固定する装具が役立つこともあります。
*症状や、症状の変化を随時医師に相談し、適切な治療を適切な時期にうけましょう。
W 多発性硬化症の日常生活の過ごし方は?
悪化・再発の因子として、感染症、過度の運動、疲労、体温の上昇、外傷、外科手術、精神的ストレス、出産、紫外線等があげられます。少しでも多発性硬化症が悪くならないような日常生活を心がけましょう。
以下に療養のポイントをまとめました。
(1) 免疫力を高める
・栄養バランスの取れた食事:ビタミン、ミネラルをしっかり取ることが第一です。
・適度の運動:翌日に疲れを残さない程度にしましょう。
・十分な休養
・精神的ストレスをためない:多発性硬化症に限らず病気では、免疫が低下するといわれています。
(2) 感染症を予防する
・カゼ・インフルエンザ:冬期は部屋の乾燥、喉の冷えに注意しましょう。
・尿路感染症:排尿障害が起こると現れやすいので特に注意しましょう。
(3) 環境を整える
・適温
・目にやさしい環境:目の悪い人は特に長時間のテレビやパソコン等の使用は抑える。モニターは目線が下がるよう低い位置におく、フィルターを取りつけるなどの配慮が必要です。
・過度の日焼け防止:ある程度の紫外線は骨の成育に必要ですが、日焼けにより免疫のバランスを崩しますので予防が必要です。
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